読売新聞 2012/2/29
脳卒中で、麻痺が残った手足が、固まったり突っ張ったりする事がある。
リハビリの妨げにもなる。
「痙縮(けいしゅく)」と呼ばれる症状で、
この痙縮に対する治療法の一つが「ボツリヌス療法」である。
神奈川県座間市に住む茨島敏伯さん(60)は、
36歳の時と5年前に脳梗塞を発症。
後遺症で左腕に重度の麻痺が残った。
痙縮などのため、肘は直角に曲がり、指も握りこぶしの状態。
自分の意志で肘も指も全く伸ばせなくなっていた。
茨島さんは「着替える時、右手1本で、曲がったままの左腕に
袖を通すのは大変だった」と振り返る。
茨島さんは、昨年10月と今年2月上旬の2回にわたり、
東海大病院(神奈川県伊勢原市)でボツリヌス療法を受けた。
神経の伝達を阻害して筋肉を弛緩させる薬剤を筋肉に注射する。
筋肉の緊張がほぐれ、腕や指、足などが伸ばしやすくなり、痛みも和らぐ。
効果は3、4ヶ月続くという。
東海大リハビリ科教授の正門(まさかど)由久さんは
「手や足に痙縮があると、動かす際の妨げになり、
リハビリをするのが難しい。
ボツリヌス療法で痙縮が軽減されているうちにリハビリを行い、
機能回復ができれば、薬の効果が切れても、
痙縮の症状は治療前より軽くなる」と話す。
茨島さんは肘と手首、指を曲げる筋肉に痙縮の症状が強くでていたため、
上腕二頭筋など5箇所に注射をうった。
ボツリヌス治療の後、茨島さんは週1回の外来リハビリで、
左の肩や肘、手首を伸ばすストレッチを重点的に受けた。
自宅でもストレッチを心がけた。
効果はあがり、まず、肘や指が以前より伸びるようになった。
両手の指を使って薬袋を破くなどの動作もこなせるように。
現在では装具を使えば、肘はほぼまっすぐに伸びる。
茨島さんは「コーヒーの瓶を左手で押さえて右手で蓋を開けられるなど、
自然に左手を使う事が増えた。
水泳でも、左手が少し使えるようになって嬉しい」と笑顔を見せる。
ボツリヌス療法は、80カ国以上で認められるなど
世界で広く行われている。
日本では、一昨年10月、脳卒中などの疾病を原因とする痙縮に対し、
ようやく保険診療が認められた。
投与する薬剤は高価だが、障害者手帳を持っていれば、
等級によっては自己負担分が医療費助成で軽減される。
正門さんは「痙縮の治療には、ボツリヌスが最も効果的だ。
もっとこの療法が広く行われるべきだ」
と話している。

